
2025/06/01
ストレートな世界にも存在する「文脈」の正体
「欧米は“本音と建前”がないから楽だよね」
そんなふうに言われることがあります。
確かに、相手に直接意見を伝える文化や、イエス・ノーを明確にする場面にはよく出会います。
けれど実際に仕事やプロジェクトで深く関わってみると、それだけでは進められない“空気”や、“察する”必要のある文脈が確かに存在していました。
YESと言われたのに、話が進まない?
イギリスのマガジンとの契約調整を進めていたときのことです。
いくつか提案をした際、返ってきたのは「Great idea」「Sounds good」「I’ll check internally」といった前向きな言葉でした。
ところがその後、何の連絡もなく、進展もありません。
再度こちらから連絡すると、返信自体はあるのですが、はっきりとした結論は出てきませんでした。
そこで気づいたのは、これは「NO」とは言っていないけれど、「YESでもない」ということです。
欧米では、YESという言葉が、必ずしも“前向きなゴーサイン”ではなく、「今のところ否定はしない」というニュアンスで使われることもあるのだと実感しました。
本音はある。でも、“今ここで言わない”だけ
日本のように建前文化があるわけではない。
そう思われがちですが、実際には「ここで言うと角が立つな」「この場では言わずに後で伝えよう」といった非言語の調整は、欧米でもしっかり行われています。
むしろ、「大人同士なんだから、そこは察してよ」という空気すらあります。
これは単なる忖度ではなく、文化的な“間合い”の取り方です。
「自由に言える環境=何でもその場で言う」ではなく、「誰に、いつ、どんなトーンで伝えるか」を丁寧に設計しているのだと感じました。
空気を読む必要がない? いいえ、読み方が違うだけです
「空気を読む」というと、日本特有のもののように思われるかもしれません。
でも、欧米にも“空気”はあります。
違うのは、その読み方と優先順位です。
誰が主導権を持っているのか
この場でYESを引き出すことが重要なのか、それとも関係性を育てることが先なのか
発言の強さは本気度なのか、文化的な表現スタイルなのか
こういった“文脈のデザイン”を読み違えると、かえって日本以上にズレてしまうこともあるのです。
ストレートな文化の中にも、空気は確かに流れています
フランスでも、イギリスでも、アメリカでも。
「率直さ」が重んじられる文化の中にも、「言わないけれど察してほしい」という場面はあります。
ですので、「欧米は空気を読まなくていい」「何でも言える」というのは、半分は正しく、半分は幻想かもしれません。
本音と建前の形が違うだけで、“場”にはやはり空気が存在しているのです。
最後に
「空気を読む」と聞くと、どこか受け身で、ネガティブな印象を持つ方もいるかもしれません。
でも実際には、「その場をどう設計し、どう受け止め、どう反応するか」という非常に能動的なコミュニケーションスキルだと思います。
そしてそのスキルは、国や文化が変わっても、決して無用になることはありません。
表現の方法は違っても、「人と人が場を共有する」という本質は、どこでも変わらないからです。